オーラル・コミュニケーションで 間違いはどう扱うか

英語教師にとって、生徒の間違いを直すのはなかなか難しい。

授業前半である構文をPattern practice やrepetitionを通して何度も何度も練習する。個人でやったり、ペアワークでやったり、グループでやったり......。ところが、後半に、いま まで練習してきたはずの構文を使ったタスクをやると、それまで練習ではスムーズに出てきた構文が出なくなる。どうしてあんなに練習したのに......と 先生は思うかもしれない。先生によっては、コミュニケーション活動をしているのに、それを遮ってまでも構文を直してしまう人がいる。しかし、コミュニケー ション活動の最中に練習してきた構文がうまく使えなくなるのは当たり前なのである。構文練習のときは、生徒は構文のみに集中しており、意味内容はすでに決 まっているので、ほとんど意識を向ける必要がない。全神経を構文の再生に向けることができるのである。

しかし、タスクなど、コミュニケーション活動になると、意識は構文よりも、意味内容に向けられる。これは、trade-off現象といい、ある新しいこと に集中力を注ぐと、それまでできていたはずのことができなくなる、ということである。意味内容に神経を向けながら構文を正しく使えるためには、その構文が 単なる練習ではなく、コミュニケーション活動のなかで自動化されるぐらいに使われなければならない。それまでは、構文が間違っていても、意味がちゃんと通 じていれば、あまり直したりしないようにし、生徒が自信をもってコミュニケーション活動自体に集中し、コミュニケーションすることを楽しむことをよしとす ることが必要なのである。

(July 2012)

吉田先生のPROFILE

吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長

専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。

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