Bilingual か Plurilingual か

英語を勉強している人にとって、バイリンガルになることは大きな夢だろう。でも、どんなに英語ができるようになっても、あなたはバイリンガルですか、と 聞くと、ほとんどの人が「いいえ」と答える。英語の本が読め、ニュースを聞いて理解でき、ネイティブ・スピーカーと話して通じても、である。なぜか、と聞 くと、ネイティブのように話せないから、という。つまり、バイリンガルになるためには、2つの言語をそれぞれのネイティブ並みに使えるようにならなければ ならない、と思っているのである。

バイリンガルとかマルチリンガルという表現は、どちらかというとアメリカの移民のように、日常生活のあらゆる面で(愛を語るなどの深い感情を表現する場 面も含めて)第2 言語である英語を使わなければならない状況を前提とした表現なのである。日本にいる日本人のように、買い物や旅行のような社会的場面、教育、仕事、研究な どの「公的」場面では英語が必要だが、家庭生活や愛を語るときのような「私的」場面では、母語である日本語が使われる、という状況には当てはまらないので ある。

実は、日本のような状況により適した表現はヨーロッパで使われているプルリリンガル(plurilingual)という表現だろう。一人のなかに複数の言 語が存在するが、それぞれ独立した別個の言語ではなく、個々人が必要に応じて使い分けられるものである。日常生活は母語であるA が使われ、教育を受けるためにはB、仕事にはC、そして、海外旅行に行ったり外国からの旅行者と話すときにはD という言語が使われる。

(September 2012)

吉田先生のPROFILE

吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長

専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。

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