なぜ speaking は難しいか

一つの課で教えた表現や構文は、一度テキストで理解し、文法説明すれば、4技能全てで即使えるようになるのではないか、という錯覚に陥ることがある。

特に、speaking が重視されてきている今日、この点について少し考える必要がるだろう。次の表を見てほしい。

  Receptive Productive
+Real time Listening Speaking
-Real time Reading Writing

まず、+Real time の活動は、ゆっくり言語表現や構文を考える時間はなく、基本的に内容重視になる。
それに対して、-Real timeの活動は、じっくり考える時間がとれる。Speaking や listening は real time で行われるので、それだけ表現や構文に意識を向けることが難しいが、reading やwriting は辞書を引いたり、ゆっくり表現を考えたりすることができる。ということは、speaking や listening の場合は、既に知っている表現が中心になるが、reading や Writing の場合は、新しい表現や構文を導入することが可能となる。つまり、speakingや listening の方が生徒が既に「身につけた英語力」を必要とする、と言えるのである。

更に、receptive な活動は、書き手や話し手の意味の理解が求められ、必ずしも使われている表現や構文が全てわかっている必要がないのに対して、productiveな活動 の場合は、自分が知っている表現や構文の範囲内で表現するしかないのである。ということは、自らが持っている表現を駆使しなければならない productive な活動の方が難しい、と言えるだろう。

つまり、+Real time で Productive な活動である speaking は、言語表現に着目する時間がなく、しかも、自分が知っている言語形式を使って表現しなければならないので、4技能の中で最も難しい、と言えるだろう。あ る課のテキストで新しい表現や構文が導入されたとしても、それを即speaking でも完璧にできるようにさせようとしてもできるものであはないことを知っておく必要があるのである。

(December 2012)

吉田先生のPROFILE

吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長

専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。

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