吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長
専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。
高校の入試問題を見ていると、英語の試験の内容は、英文法や英単語の意味を聞くような「知識」偏重型の問題は比較的少ないことに気付く。結構言語知識よりも言語運用能力を評価する問題が多いのである。リスニングにしても、リーディングにしても、文脈を理解し、状況が分からないと解けないような問題が出ている。大学入試も、センター試験の内容を見ていると、同じような傾向がみられる。そう考えると、英語の入試問題は、世間一般で言われているほど悪くはないと言えそうである。
しかし、ここで疑問なのは、「問題の質が良いのに、どうして英語の勉強の仕方にポジティブな波及効果を及ぼさないのだろうか」ということである。つまり、受験勉強自体は、昔も今もあまり変わっていないように思える。いまだに、文法訳読中心の受験勉強が大勢を占めているのではないだろうか。入試は良くなっているのに、受験勉強の仕方が変わらないのは不思議である。
一方、例えば、 iBT TOEFLのような英語能力判定試験の準備を文法訳読でやっている人はどれぐらいいるだろうか。もちろん、単語力は必要だが、従来の勉強の仕方ではとうてい間に合わない。ならば、センター試験だって試験問題そのものは結構良いものが出題されているのに、どうして勉強の仕方が違うのだろう。理由はいろいろあるかもしれないが、一つの可能性は、iBT TOEFLのような英語能力判定試験は、4技能、特に、スピーキングとライティングというプロダクション・スキルが含まれていることが挙げられるだろう。スピーキングやライティングは、実際に英語を話したり書いたりする経験を積まないとできない。そこで、受験準備の段階でも、英語を聞くことはもとより、書いたり、話したりする練習が必要なのである。もしこれが正しいのだとすれば、やはり、英語の入試は、4技能を含んだものにしない限り、どんなに入試を変えても、英語の勉強の仕方は変わらない、ということになるのではないだろうか。
(October 2013)
専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。