言語力の指標としてのCan-Do

Can-Doリスト(以下Can-Do)というと、基本的には外国語教育の目標として使われているものだが、その考え方の根幹にあるのは、対象となっている言語を使って「何ができるか」ということを明確化するということである。例えば、英語教育に当てはめると、「簡単な英語を使って自分の日常の出来事について説明することができる」という具体的な目標を立て、その実現に向けた指導をすることを意味する。

しかし、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)のA1(低)からC2(高)まであるCan-Doの目標を見てみると、特にB2以上のCan-Doは、社会的な話題について正確に理解できたり、それについて話すことができたり、自分の意見を論理的に構成して相手に正しく伝えることができたり、また他人と議論ができたりと、必ずしも外国語に限定されるものではない。つまり、Can-Doは、ヨーロッパでは、CEFRの指標として、複言語主義の考え方に基づいて作られているもので、目標言語のnative speakerのように言葉が使えることを最重要の目標とはしていない、といえるだろう。

そう考えると、日本の場合、今問題となっている子どもたちの日本語を念頭に置いた「言語力」の育成にも十分目標として使えるものなのである。「日本語で自らの考えを論理的に構成して相手に伝える能力」などは、まさに 日本語でこそ必要なものだといえるし、日本語でそれができるようになれば、英語で議論や自己主張ができるようになっていく、と考えられるだろう。

(July 2013)

吉田先生のPROFILE

吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長

専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。

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