吉田研作
上智大学言語教育研究センター教授・センター長
専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。
先日、文部科学大臣より「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」が発表された。小学校英語に関しては、中学年で外国語活動を開始し、高学年で教科としての英語を週3コマ実施すること、中学校英語に関しては、授業を英語で行うことを基本とすること、さらに高校卒業段階の英語能力到達レベルについては、現在の準2級・2級レベルから2級・準1級レベルに上げることなどが詳しく述べられている。また、この改革を実施するために、英語教員の英語力を英検準1級に引き上げること、教員研修を充実させ、ALTだけでなく、日本人を含めた外部人材の登用を積極的に行っていくことなどを提案している。
この計画自体は非常に意欲的で、実現されれば素晴らしいものだと思うが、一つ気になることがある。それは、この計画の最後に述べられている「日本人としてのアイデンティティーに関する教育の充実について」の部分である。そこには、国語教育、歴史教育、そして道徳教育の重要性が述べられているが、それがこれまでの英語教育改革とどうつながっているかがよく分からないことである。
確かに、日本人としてのアイデンティティーを育成することは大切なことだが、それは、例えば、外国語(英語に限らず、多様な言語)を学んだり、中・高・大学時代に積極的に海外留学したり(英米に限らず、いろいろな国に)、いろいろな国からの留学生を迎え入れたりすることによって、自分との違いに「気付いていく」過程で認識されていくものではないだろうか。自ら外国語を学んだり、海外で暮らしたり、外国人とコミュニケーションを取ることによってこそ、自らのアイデンティティーに気付くのであり、知識教育だけでは「暗記」はできても「実感」できるものではないだろう。外国語は単なる「実用的ツール」として学ばれるものではないのである。
(December 2013)
専門は、応用言語学。最近は、文部科学省の「外国語の能力の向上に関する検討会」座長も務める。また、日韓中国の高校生の英語力比較や教師の教え方を研究。海外のThe International Research Foundation for English Language Education(TIRF)の理事や、国内ではNPO小学校英語指導者認定協会の理事なども務める。著書多数。