竹中龍範
香川大学教育学部教授
専門は、英語教育学。特に英語教育史、英学史、英語辞書史、並びに言語文化論を研究。日本英語教育史学会会長、日本英学史学会中国・四国支部長や、文部科学省の教育研究開発企画評価会議協力者などを務める。小学校英語教育についても、研究開発学校指定校直島小学校の運営指導委員などを務める。著書・論文多数。
ロンドンのターミナルや、他の町の大きな駅で列車に乗ろうとしてホーム前の案内を見ると、発着番線のところにNYDという表示を見ることがあります。NYDとは一体何を意味するのでしょうか。
イギリスに行って最初のころ、こんなことがありました。駅のホームで列車を待っていると、スピーカーから放送が流れてくる。雑音の中、「よく聞き取れないな」と思っているうちに、他の乗客は階段を下りて隣のホームに移動する。 やがて隣のホームに列車が入ってきてそのまま発車し、こちらは独り置いてけぼりになってしまう。何度か悔しい思いをした記憶が残っています。
ひと月くらい経って、これが聞き取れるようになったときに思いました。「雑音が原因で音の聞き分けができていないのではなく、発想が分かっていない、スキーマが形成されていないのだ」と。
かつてのイギリス国鉄の自慢は「わがBritish Railは日本の国鉄に次いで世界で2番目に時刻表どおりに走らせている」ということでした。
これは裏を返せば列車が遅れるのは珍しくないということです。その際、日本のように発着番線を固定していると、一本が遅れると後続の列車もどんどん遅れることになります。「それなら空いているホームにどんどん入れてしまえ」という発想が根底にあるのです。
「ああ、これがイギリスの合理主義なんだ」と分かったときは、この方が機能的だと思いました。
さて、これが納得できると、冒頭の疑問に対し、「そうか。NYDは、Not Yet Decidedの略称だ」と合点するのに、そう時間は掛からないはずです。
日本で次の列車が何番線かと見てみると「未定」となっていたら、皆さんならどうしますか。
(September 2013)
専門は、英語教育学。特に英語教育史、英学史、英語辞書史、並びに言語文化論を研究。日本英語教育史学会会長、日本英学史学会中国・四国支部長や、文部科学省の教育研究開発企画評価会議協力者などを務める。小学校英語教育についても、研究開発学校指定校直島小学校の運営指導委員などを務める。著書・論文多数。