穴の中のヒキガエル?

昔、英国に10カ月ばかり滞在した際に、後半はホームステイをして家庭生活を体験しました。おばさんの料理の腕が良く、ラッキーでした。英国の料理はまずいとよく言われますが、家庭料理にはおいしいものがあるとも言われます。

 

ある時、おばさんに伝統的な家庭料理にはどんなものがあるのかと尋ねたところ、帰国までの3カ月ばかりの間、時々そういうものを作ってくれるようになりました。胃に収める前に、料理の名前を尋ね、写真に撮って帰りましたが、思い出深いものがいくつかあります。

 

キジの丸焼き、サメの肉を蒸し煮にして日本のあんかけのようにしたもの、子羊のタンなどは、印象深いものとして今でも記憶に残っております。最後の子羊のタン(lamb’s tongue)は、辞書を見ると、植物名であったり、建築用語であったりするようですが、料理の方は、原形のままの小さなタンをゆでて、皿に並べただけのものでした。塩、こしょうをふって食べると、柔らかくておいしかったことを覚えています。

 

さて、料理名で思わず「えっ?」と驚いたのが、このコラムの題としたtoad-in-the-hole「穴の中のヒキガエル」でした。名前を知ったときには我が耳を疑い、「toad?あのカエルの仲間の?」と思わず聞き返しました。するとおばさんは、笑いながら「違うわよ。そんなもの食べないわ。(小麦粉に卵、牛乳を混ぜて溶いた)batterの中に、ソーセージを落としてオーブンで焼くの。そうすると焼き上がりが、穴の中に潜り込んでいくヒキガエルの姿のように見えるから、そういう名前になったのよ」と教えてくれました。

このネーミングに英国人のユーモア感覚を思うとともに、「英和辞典の説明ではこの料理の見栄えは伝わらないな」と思いました。ぜひ実物を見てください。

 

(December 2013)

竹中先生のPROFILE

竹中龍範
香川大学教育学部教授

専門は、英語教育学。特に英語教育史、英学史、英語辞書史、並びに言語文化論を研究。日本英語教育史学会会長、日本英学史学会中国・四国支部長や、文部科学省の教育研究開発企画評価会議協力者などを務める。小学校英語教育についても、研究開発学校指定校直島小学校の運営指導委員などを務める。著書・論文多数。

外国語ワールドへようこそトップへ戻る