東京大学

教養課程の英語教育改革で、発信型の英語力を向上

東京大学
大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻
板津 木綿子 准教授

「書く・話す」中心の発信力を高める

東京大学では現在、国際化を推進しており、グローバルコミュニケーション研究センターを含め、様々な部局で学生の英語力の向上や留学の促進などを担っています。本学の教養課程における英語教育は、これまで「読む」ことに重点がおかれてきました。1990年代半ばより、世界14カ国から留学生を受け入れ、在学生を派遣する短期交換留学プログラムをスタートしたものの、在学生が英語を読めても話せないため、留学生と交流を深められず、学び合うことができないという課題が浮き彫りになりました。

そこで、「書く・話す」という能動的な発信力を高めることを重視し、2008年に理系学生向けのアカデミック・ライティングのプログラム「ALESS(Active Learning of English for Science Students)」を導入しました。これは理系の1年生全員を対象とする1学期間のプログラムで、学生自らが設定した研究課題に対して、仮説を立て、実験を行い、英語で論文を執筆し、プレゼンテーションをするという内容です。科学者としての英語コミュニケーションの習得を目的とし、1クラス15人の少人数制とし、ネイティブ教員が英語で授業を行っています。このプログラムで大切にしているのは、学生同士の学び合いです。「ピアレビュー」を取り入れて、学生が2人1組でお互いの論文の論理構成や文法の誤りなどを指摘し合い、分析的な思考や論理的な表現を用いた論文作成のスキルを高めていきます。

また、学生が学びを深めることができるよう「ALESS Lab」を設置し、実験に必要な器具を提供し、理系大学院生のTAから実験に関するアドバイスを受けることもできます。また、「Komaba Writers’ Studio」では、人文系大学院生が英語での論文作成や口頭発表について相談を受け付けています。ここでは添削指導をするのではなく、論の立て方などを話し合うことで、学生自身の気づきを与えることを大切にしています。

学生の意欲的な学びを促す各種プログラム

2013年には、文系学生向けのアカデミック・ライティングプログラム「ALESA(Active Learning of English for Students of the Arts)も開始しました。こちらも1クラス15人の少人数制を徹底し、ディベートやディスカッションを組み込んだ授業を行っています。

また、ALESSとALESAに加えて「教養英語」の授業では、入学試験の英語試験の結果に基づいてクラス分けを行う習熟度別授業を取り入れました。学生たちは3つのレベルに分かれて、読解力、聴解力の向上を目標とする授業を受けます。学期末の試験の成績によって、クラスは入れ替わるため、今より上のレベルの授業を受けたいと意欲的に学ぼうとする姿勢が見受けられます。

入学試験の英語試験で優秀な成績を収めた学生には、更にもう一つの外国語を習得する集中プログラム「Trilingual Program」も実施しています。これは、1年次に中国語の基礎を身につけ、2年次に中国へ短期留学するものです。

新入生300 人の受験料を大学が負担

このような教養課程における英語教育が機能しているかを検証するために、2013年にはIELTSを導入しました。新入生3000人のうち、希望者300人に対して、大学が受験料を負担し、公開会場で受験できる体制を整えています。英検が試験を実施運営することへの安心感をはじめ、ペーパーベースの記述式試験で、スピーキングも対面式試験であることによる受験のしやすさ、バランス良く4技能を測定できること、世界標準の試験であることから、導入を決めました。学生には、受験を通じて自分の英語学習の振り返りや実力の把握に活用してほしいと思います。2013年度は新入生300名だけが受験しましたが、2014年度からは2年生も受験し、英語力の伸張の様子を客観的に測ることができるようになります。データを分析し、今後の英語教育のカリキュラム編成に活用していきたいですね。

昨年は初年度ながらも、学生のIELTSへの関心も高く、受験する学生同士で自主的に勉強会を開いていたようです。学生たちには、留学や海外研修など、何らかの形で世界へ羽ばたいてほしいと思っています。特に交換留学を考える学生には、IELTSのスコアが英語力の証明となりますので、積極的に受験してほしいものです。

プロフィール

東京大学

1877(明治10)年、東京開成学校と東京医学校を合併し、日本初の官立大学「東京大学」として設立。1949(昭和24)年に新制大学へ移行。2004(平成16)年に国立大学法人となる。本部機能や専門教育を行う本郷キャンパスのほか、教養学部がある駒場キャンパスほか、全国各地に約50の附属研究施設、演習林などをもつ。

東京大学 駒場キャンパス 住所 :〒153-8902 東京都目黒区駒場 3-8-1