英語教育に関する論文・報告書

STEP BULLETIN vol.17 2005

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

英語能力テストにおけるマルチリテラシー
―イメージの発信するメッセージを読む―

静岡県/静岡県立静岡西高等学校 教諭 松下 明子

▼研究概要
言語に加え視覚イメージがあふれる現代は,言語リテラシーだけでなく,ビジュアルリテラシーも求められている。ビジュアルリテラシーを高めるためには,言語にも存在するような「文法」の存在を意識することが必要であろう。英検の二次試験でもまた,パッセージに加えイラストが使われている。イラストの中で,個々の要素はどのようにかかわり合ってメッセージを作り出しているのか。受験者はそれらの要素とどのような関係を築き,どのようなメッセージを受け取っているのか。 この研究では以上の点に注目し,2003年度と2004年度に使用された準2級と3級のイラストの分析をビジュアル文法を用いて行う。それぞれの級の傾向や問題点が明らかになる中で,同一回で使用される数種類のテストが公平に受験者の言語能力を測定できるよう,留意項目を特定する。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

自由英作文における学習者コーパスの文章の種類別品詞分析から得られる教育的示唆

山形県/鶴岡工業高等専門学校 助教授 柏木 哲也

▼研究概要
高校生,高専生を対象にした自由英作文を叙述文,物語文,論述文という文章の種類別に分け,その学習者コーパスを品詞別に英語母語話者(大学生)の論述文(argumentative な題材)と比較した。その結果,叙述文と物語文が最も英語母語話者との相違点が多く,内容の近い論述文が最も語の使用において近かった。具体的に,① 書く力を示すTTR(タイプ・トークン比= 後述)は母語話者,論述文,物語文,叙述文の順に高く,それにほぼ一致する傾向を示すのが平均語長と1文の長さである,② 1,2人称の代名詞は頻度が高いが3人称は低い,③ 論理的内容(場所時間以外)の前置詞,助動詞の過去形,be動詞ではbe,been,不定詞,論理的機能語などで母語話者に劣り,逆に① 1人称の代名詞,② 自動詞の使用,③ 否定文で過剰使用の傾向が見られた。教育法への示唆として,①物語文が最も書く量が多く動詞の種類は多い,② 論述文は最も論理的機能語の使用が多い,③ but や逆接の接続詞,副詞は使用を控え,肯定文を増やす指導をする,④ 原因,理由を多く説明するよう指導をする,⑤ 基礎学力の不足している学生には論述文を慎重に導入する,などの点が考えられる。また教師側の留意点として不定詞と助動詞の過去形の持つ実用的な意味指導が挙げられよう。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

リーディングテストにおける質問タイプ
―パラフレーズ・推論・テーマ質問と処理レベルの観点から―

茨城県/筑波大学大学院 博士課程・在籍 清水 真紀

▼研究概要
本研究ではリーディングプロセスの観点から,英検,TOEFL,大学入試センター試験のテスト構成を明らかにし,さらに上位・下位レベルの処理の概念も加え,これら異なるレベルの処理間にどのような関係があるかについて調べた。 まず,各テストの質問を,内容の観点から「パラフレーズ質問」,「推論質問」,「テーマ質問」,「指示質問」,「語彙質問」,「文章構造質問」の6種類に分類した結果,TOEFL が多様な種類の質問から構成されているのに対し,英検は明示的な情報について問う質問が多く,また,センター試験はこれらの中間とも言える特徴をなしていることがわかった(調査1)。さらに,「推論質問」,「テーマ質問」,「文章構造質問」を上位レベルの処理,そして「パラフレーズ質問」を下位レベルの処理とした場合,上位レベルの処理は下位レベルの処理よりも難しいことが示された。また上位・下位レベルの処理の相関は中程度であることがわかった(調査2)。 これらの結果から,質問内容は項目困難度に影響を及ぼす重要な要因の1つであると考えられること,そして幅広い技能を含めたリーディング能力を測定する場合にはさまざまな内容の質問をテストに含めることの重要性が示唆された。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

日本人中高生における発表語彙知識の広さと深さの関係

茨城県/筑波大学大学院 博士課程・在籍 小泉 利恵

▼研究概要
本研究の目的は,コミュニケーション能力の一部である発表語彙知識に焦点を当て,発表語彙知識の広さ(中核的な意味を知っている単語がどのくらいあるか)と深さ(ある単語の1つの意味に加え,連想・接辞の知識など他の側面をどの程度知っているか)の2つの関係がどの程度あるかを調べることである。結果は,発表語彙知識の広さの3000語レベルまでの幅広い学習者層で見ると,広さと深さの関係は強く,広さレベル(1000語単位)ごとに見ると,中程度の関係があった。これらの点から,発表語彙知識を測定する際,対象者の発表語彙知識の広さの範囲が幅広い場合には,広さから深さがある程度予測できるが,範囲が狭い場合には,広さと深さの両方を測る必要があることなどが示唆された。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

音読筆写時間と高校生の英語能力の関係

三重県/三重県立明野高等学校 教諭 北村 英子

▼研究概要
最近の音読ブームを英語教育に応用し,音読と音読筆写を英語授業に取り入れて,その有効性を検証する。そのため以下のようにまとめた。 初めに,実践をするにあたっての理論的背景を調べ,有効性に期待を持つことができた。第2に,筆者の勤務する高校の1年,2年,3年生を被験者に,実験を開始した。音読筆写をする実験群と,音読筆写をしない統制群に分けて実験を行った。音読筆写を実施した時間を毎日記録させて,その累計時間と英語の成績の相関関係を見る。英語の成績を見るためには,1年生は(財)日本英語検定協会の英語能力判定テストを使わせていただいた。なお,2年生と3年生は,通常の定期テストを使用した。 第3にすべての被験者にアンケートを実施して,音読筆写についての回答を得た。アンケート結果は,今回報告する分析結果とほぼ一致した。 最後に,SPSS で分析を行い,音読筆写累計時間と英語の成績の関係,また,どのような技能に相関があるかを見た。実験前後の英語力の伸びも確認した。累計時間の多い者と少ない者の英語テストとの相関関係も調べた。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

高等学校英語Ⅰ・Ⅱの授業の大半を英語で行うための工夫とその授業の効果【共同研究】

大阪府/大阪府立鳳高等学校 教諭・代表者 溝畑 保之

▼研究概要
普通の英語学習環境を持つ学校で,英語の使用が中心になる授業を行うためにはどのような工夫が考えられるだろうか。平成16年度,複数の高校で英語Ⅰ・Ⅱとリーディングの授業の大半を英語で行った。そのため,モデル提示,例示,余剰性,繰り返し,相互交渉,拡張,褒賞を大事にした。また,言語学習の4条件のExposure,Use,Motivation,Instruction の観点にも留意した。さらに,その授業の効果を,項目応答理論に基づくテストで検証した。情意面のアンケートを行うことで,英語での授業に対する不安や自信度についても考察を行った。本稿は,英語で行う英語の授業をめざした5校の教員集団の試行錯誤の実践報告である。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生の自由英作文における教師のFeedback と書き直しの効果

鹿児島県/鹿児島県立志布志高等学校 教諭 有嶋 宏一

▼研究概要
本研究は,高校生の自由英作文における教師のFeedback の効果と,生徒の書き直しの効果について調べたものである。仮説として,教師のFeedback だけではライティング能力の向上に対する効果は低いが,Feedback を与えて,生徒に書き直しをさせた場合に生徒のライティング能力は向上するとした。このことは一般には当然のことと考えられるかもしれないが,先行研究では書き直しを行っても効果はないという結果も出ているため,このように仮説化した。検査方法としては,量的研究とケーススタディを行った。 結果としては,仮説が正しいことがデータにより明らかになった。つまり,Feedback を与えるだけでなく,生徒に書き直しも求めるべきことが示唆された。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

暗唱文テストで育成する表現の能力【共同研究】

広島県/広島県立福山葦陽高等学校 教諭・代表者 門田 直美

▼研究概要
本研究の目的は英文を暗唱することにより,国立教育政策研究所教育課程研究センター「評価の観点及び趣旨」の「表現の能力」が定義とする「外国語を用いて,情報や考えなど伝えたいことを話したり,書いたりして表現する」力の育成が図れることを検証することである。 1・2年生を対象に6割を到達目標とする暗唱文テストを週1回実施し,すぐに採点を行ってテスト実施日に返却し,基準点に到達しない生徒に課題を提出させた。1・2年生全員に同じ時間帯に共通テストを実施・返却し,スピーディーなフィードバックを行い,英語科だけでなく担任・副担任など多くの教員が情報を共有し迅速に一致協力して指導を行うことで集団の教育力を活用して生徒の学習意欲を喚起した。また,毎週少しずつ覚えた暗唱文を基盤に,1年生を対象に総復習暗唱文テスト,英語で日記を書かせるジャーナル・ライティング,スピーチ・テスト,インタビュー・テストを行い「表現の能力」の育成を図った。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

中学校における正確さと流暢さを同時に高める言語活動の開発とその評価のあり方

高知県/土佐市立高岡中学校 教諭 今井 典子

▼研究概要
中学校学習指導要領(外国語科)の目標である「実践的コミュニケーション能力の基礎」の育成には,実際に行われるコミュニケーションを「教室内でのシミュレーション」として,現実的な場面や目的を想定し,学習した文法知識や語彙などの言語知識を活性化する言語活動が必須である。そのためには,与えられた課題を解決するために,言語知識を場面に応じて実際に運用させる言語活動である,ESL(English as a Second Language)の世界で注目されているコミュニケーションを第一義とするCommunicative Language Teaching(CLT)の考えを基本とした「タスク(Task)」が有効であると考える(Nunan, 2004)。しかし,EFL(Englishas a Foreign Language)というインプットもフィードバックも少なく,学習者の動機付けもそれほど高くない日本の学習環境を考慮した場合,このタスクの理論を基本としながらも,日本の教室環境に適した中学生のためのタスク活動(高島,2000; 2005)が効果的であることが検証されている(Sugiura andTakashima, 2003)。本論は,これらの実証研究を踏まえ,言語使用の正確さを一層高める方法として,タスク活動後にdictogloss(Wajnryb, 1990)の活動を連動させることで,「正確さ」と「流暢さ」を向上させることを試みた研究実践である。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

PC 教室で行う中学生のスピーキング指導
―デジタル映像を利用した即時フィードバック―

神奈川県/山北町立山北中学校 教諭 室伏 秀元

▼研究概要
本研究はあるスピーキング指導法を実践し,その効果についてさまざまな分析を試みたものである。指導法とはWebカメラで学習者のパフォーマンスを録画し,その直後に学習者自身がビデオ映像を見ながら自己評価を行い,仲間や教師からフィードバックを受ける活動である。分析の結果,この活動を4回繰り返すことで発話量と正確さにおいて一定の向上が見られた。また,モデル映像を用意し,クラスごとにモデル映像を見せるタイミングを変えた結果,発話量の上昇の仕方に違いが見られた。これらのデータに考察を加え,本指導法の価値と課題について見解を述べる。

実践部門 Ⅶ 英語能力向上をめざす教育実践

学習者のクラスター化に基づいたシャドーイングの効果的活用

秋田県/大曲市立大曲南中学校 教諭 吉澤 孝幸

▼研究概要
本研究は,シャドーイングを中学校での授業へ導入する際の効果的なあり方を探索した実践報告である。研究内容は,2つのサイクルで構成される。1つ目のサイクルでは,教科書を題材にし,授業で学習した英文をシャドーイングを通して瞬時に引き出すことをねらった。1つ目のサイクルが終了した段階で,一律的なシャドーイング導入により生じた問題点を洗い出し,次のサイクルを実践する。2つ目のサイクルでは学習者が内在する特徴により11のクラスター(群)に分類し,シャドーイングを通して学習する際,個々の生徒による学習上の特徴や考え方により教材の量や目標を決めていくやり方をとり,実験群と統制群とで比較した。インタラクションの活性化という所期の目的すべてを解決することはできなかったが,生徒の活動の中から心理的負荷が取り除かれ,目的意識を持った活動の様子が観察された。

実践部門 Ⅷ 英語能力向上をめざす教育実践

第二言語習得を加速させる流暢さのトレーニング
―継続的な「多読」&「書き出し訓練」の効果―

神奈川県/私立栄光学園中学高等学校 教諭 宇佐美 修

▼研究概要
本研究の目的は,正確さのトレーニングと流暢さのトレーニングの両方を,どの段階でどのような割合で行うと高い英語運用能力が身に付くのかということについての知見を得ることである。中学生に対して「多読」と「書き出し訓練」という流暢さのトレーニングを継続的に行うことにより,従来の正確さ中心のカリキュラムに変更を加えた。その流暢さのトレーニングの過程を記述し(実験1),さらにその効果を2種類のプリテスト・ポストテストの実験を行い分析した(実験2,3)。実験の結果,流暢さのトレーニングを受けた生徒たちは,簡単な英文を素早く読んだり書いたりできるようになり,その中でも英語での読書量の多い生徒のほうが少ない生徒と比べて到達度テスト(英語能力判定テスト)の読解分野においてより大きな得点の伸びを見せた。流暢さのトレーニングを受けた生徒と従来の正確さ中心の教授法で学習した生徒と比べると,前者が到達度テスト(TOEIC Bridge)の総合点においてより大きな伸びが見られた。

実践部門 Ⅸ 英語能力向上をめざす教育実践

小学校高学年児童の個人の習熟度に応じたきめ細かな指導法の開発
―コンピューターを使ったOn-Demandな英語学習―

愛知県/椙山女学園大学附属小学校 非常勤講師 加藤 佳子

▼研究概要
小学校高学年クラス英語学習にはさまざまな問題点がある。本研究はそのような問題点を克服するための1つのアプローチとして,自作教材CD-ROM を作成し活用することによる児童の習熟度に応じたきめ細かな英語学習指導法の開発を目的としている。CD-ROM には,ダイアログを中心とした語彙習得・リスニング練習及び模擬対話形式によるスピーキング練習を盛り込み,必要に応じてリーディング,ライティング練習も取り入れた。また,ネイティブ講師と日本人講師によるスキットやネイティブ講師の発音練習などをビデオ録画した動画データを利用し,児童の視覚と聴覚を刺激するような内容も盛り込んだ。 自作CD-ROM を活用した個別学習は,① 個々の習熟度に合わせることができ,② 児童が主体的に学習しようとする態度を養い,③ 個々の児童の英語に対する学習意欲を高めることに大いに役立ち得ることが示唆された。この個別学習を今後も続けていくことにより,児童が自分で使える英語知識(自分の中のデータベース)を増やし,さらに,自分自身の弱点を見いだしフィードバックすることによって「自分の中のデータベース」を強化し,口頭表現能力を高めていくことが期待された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本人英語学習者のための英語語彙力測定と語彙学習方略診断調査表の開発

広島県/広島県立広島皆実高等学校 教諭 田頭 憲二

▼研究概要
本研究は,コンピューターを用いた日本人英語学習者に対する語彙学習支援としてのオンライン支援システムの構築を目的として行われ,英語語彙力測定と語彙学習方略診断調査表の開発がなされた。英語語彙力測定としては,望月(1998)の改訂版を作成し,項目応答理論を用いてより簡易な語彙力測定テストとそのテスト項目が作成された。また,語彙学習方略診断調査表としては,前田・田頭・三浦(2003)の調査項目を使用し,これまでの第二言語語彙研究結果をもとに個々の学習者に即した助言が作成された。今後,コンピューターを用いてこれらの測定・診断を学習者に提供することにより,語彙学習をより効果的に行うことができ,個々の学習者に対応した指導が可能となる。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

英語と日本語のリズムの違いに着目した音声指導
―強勢拍リズムを身に付ける英語活動―

徳島県/鳴門教育大学大学院総合学習開発コース 在籍 松永 健治

▼研究概要
本研究の目的は,小学校英語の学習者である2年生(下学年)と5年生(上学年)を対象とした,英語と日本語のリズムの違いに着目した音声指導の効果を探ることである。具体的には,音声指導の前後に学習者の発話する英語のリズムを調査・比較し,変容をとらえるようにする。また,音声指導の対象者が,英語あるいは英語の授業に対して持つ意識についても調査する。これら2つの調査を実施する意図は,リズム調査を技能面,英語に対する意識を情意面ととらえることで,児童を両面から見つめることが可能となるからである。双方から得られた結果を相互補完的にとらえ,音声指導のみならず小学校英語の在り方についても言及する。