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コラム

英語の4技能を伸ばすヒント ~「非言語化」を目指す通訳トレーニングの現場から ~

第3回 通訳者の基礎訓練:スピーキング力をつける

通訳者を目指す人にとって、クライアントや聴衆が聞いて違和感のない英語のスピーキング力をつけることは課題の一つと言えます。そして通訳者の中には海外在住中に英語を自然に身につけた人もいますが、そうでない人も多くいます。私自身はこの後者になります。では、海外経験の少ない通訳者はどのようにスピーキング力をつけているのでしょうか。前回ご紹介したトレーニングを中心に、スピーキング力を伸ばすためのポイントを説明します。

シャドーイングで苦手な発音を繰り返し練習する

最初に取り上げるのは、前回もご紹介したシャドーイングです。おさらいですが、シャドーイングとは、英文音声を聞きながら、その音声をそのまま、まねて口に出すことです。「まねる」のがポイントです。ネイティブスピーカーが話す英語のイントネーションやポーズの取り方をまねているうちに、意味の伝わりやすい自然な英語の話し方が身につくようになります(細かい手順については第2回のコラムをご参照ください)。

シャドーイングをしているときに「ついていけないな」と思った箇所には、それなりの理由があるものです。例えば、relatively(比較的)や irrelevant(無関係の)などの、日本人には発音しづらい“r”と“l”が複数入っている単語が使われている場合はひっかかりやすいようです。また、文字で書けば it shouldn’t have happened となるのに、発音は i’shouldn’ve happen’ のように聞こえるなど、弱く短く発音されるために聞き取りづらくなる場合も発話が止まってしまうことが多いです。このような場合は、つかえずに言えるまで繰り返し練習しましょう。

リプロダクションで長い文を話すトレーニングをする

次は、これも前回ご紹介したリプロダクションです。スピーキング力を鍛えるには、センテンス1文全体を聞いた後で、そのセンテンスを区切らずそのまま再現できるようになることを目標にするとよいでしょう。区切らずに話す努力をしていると、常に「主語は何?」「主語に対する述語動詞は?」「時制は?」と確認しながら話すようになります。そうすると、実際に英語で長く複雑な文を話そうとしたときでも、主語や動詞が明確であれば、途中で「あれ? 何を話してたんだっけ?」とならなくなります。また、「主語が単数だったから述語動詞はそれに合わせよう」などと自分が話す英語をその場でモニタリングする能力も培われます。

身近な話題で自分の弱点を見つける「エア・スピーチ」「エア・プレゼンテーション」

上記に加えて試してみていただきたいのが、「エア・スピーチ」や「エア・プレゼンテーション」です。両方とも私の造語ですが、自分で任意のスピーチのトピックを設定して数分間話す練習をしたり、既存のスライド資料を用いて自分がプレゼンターになったつもりでプレゼンテーションをしてみたりすることです。例えば、最近話題になったトピックであれば、「『令和の米騒動』とはどのような状態を指すのか、原因は何か、考えられる対策は何か」など、身近な話題を英語で話してみてください。最初はそもそも「令和の米騒動」を英語で何と言えばいいのかというところで戸惑うかと思いますが、とにかく「1文ずつ、主語と動詞をきちんと入れた文で話す」ことを心がけてチャレンジしてください。その後、英字新聞などで米騒動についてどのような表現を使っているのかを確認してから再チャレンジすると、英語表現の幅が広がります。さらに、自分のスピーチを録音し、書き起こしてから確認してみると、自分が即興で話すときに間違えやすい点が見えてきます(例:単数・複数への意識が弱い、過去形と現在完了形の使い分けができていない、など)。

イギリス英語とアメリカ英語の違い

日本の学校で教わる英語は、発音やつづり、そして語彙(ごい)もアメリカ英語が主流です。私も英語=アメリカ英語という認識で勉強していました。そのため、留学でイギリスに行ったときには新鮮な驚きがありました。例えば、water や little といった日常単語の“t”の音。アメリカ英語ではほぼ“d”や“l”に近い音ですが、イギリスでは“t”と発音します。また、car や hard のように語尾や子音の前に“r”があるときには、舌を巻いて“r”を発音せずにその前の母音を伸ばします。当時の私は、日本語の「ビタミン」は英語では「ヴァイラミン」だと思い込んでいたのですが、イギリスでは「ヴィタミン」という発音だったのも拍子抜けした点でした。

上記の他、アメリカ英語とイギリス英語の違いはいろいろあります。単語のつづりでは、アメリカ英語の organization や analyze がイギリス英語ではorganisation、analyse(“z”→“s”)である他、traveling と travelling (“l”が2つ) や color と colour (2番目の“o”→“ou”) など、何かとイギリスの方は文字が多い印象です。語彙に関しても、セーター(sweater)はイギリスでは jumper で、ズボン[パンツ](pants)は trousers ですし、ナスとズッキーニ(egg plant/zucchini)はフランス語の影響を受けておりそれぞれaubergineとcourgetteと呼ばれます。他にも有名なところでは、ロンドンの地下鉄は subway ではなく underground で 、subway は単なる地下道、という例もあります。建物の階数の数え方も違いがあり、日本での「1階」はイギリスでは ground floor(地上階)と言い、日本の「2階」は「1番目の階」を意味する first floor です。

実は、私は階の数え方に関しては日常生活の一部でイギリス式を「採用」していて、大学の3階まで階段を上るときに、「大丈夫、上れる。(thirdじゃなくて)second floor だから」と自分に言い聞かせています。

 

森住史 (もりずみ ふみ)氏

成蹊大学文学部英語英米文学科教授(社会言語学・通訳学)、サイマル・アカデミー通訳者養成コース講師
国際基督教大学教養学部語学科卒、国際基督教大学大学院教育学研究科博士課程前期・後期修了・博士号取得(英語教授法)。ロンドン大学とエディンバラ大学にそれぞれ1年間留学。

NHKラジオ講座「入門ビジネス英語」(2011年度後期)の講師として、英文Eメールの書き方についてのテキストの執筆にも携わる。2012年から継続執筆中のAsahi Weeklyのコラム『森住 史の英語のアレコレQ&A』では、受験英文法の確認から気を付けたいエチケットまで幅広く解説。英語を使う際の「コンテクスト」を常に重視。

通信講座『12の鉄則で学ぶ スタート英文Eメール』『英語発想で書ける! 英文Eメール中級講座』の監修・執筆者。

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