英語教育に関する論文・報告書

EIKEN BULLETIN vol.25 2013

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

統合タスクにおける類似がスピーキングパフォーマンスに与える影響
―文章と質問内容の類似レベルに着目して―

茨城県/茨城県立日立第二高等学校 教諭 矢野 賢

▼研究概要
本研究では、英検二次面接試験問題を用い、統合タスクにおいて読んだことと話すことの関係がパフォーマンスにどのような影響を与えるのかについて、類似の枠組みを用いて比較検証を行った。 まず統合タスクに関する研究および類似に関する研究などについて概観し、これらの知見に基づき、調査を2つ行った。 調査1では、インプットおよびアウトプットに用いるトピックの親密度および類似度の違いについて質問紙を用いて調査し分析を行った。 調査2ではインプットに含まれる情報がどの程度アウトプットに使用されパフォーマンスに影響を与えているのかについて、実際のインタビューにおける発話をもとに調査および分析を行った。 この結果、読んだ内容と質問内容とが高次レベルで類似している組み合わせではパフォーマンスを促進した例があった一方、表面的にのみ類似していた場合には不適切な転移を行い誤った説明につながった例が見られた。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

Coh-Metrix によるテキスト理解に必要な語彙熟達度の数値化
―語彙知識の広さ・深さ・アクセス速度を中心に―

茨城県/筑波大学大学院 在籍 濱田 彰

▼研究概要
本研究は、テキストに含まれる単語の特性を数値化するCoh-Metrixを用いて、英検テキストの読解に必要な語彙熟達度を予測した。 2つの調査を行い、語彙知識の広さ、深さ、およびアクセス速度を要求する語彙特性(e.g.,頻度・多義性・親密度)とテキスト理解度とのかかわりを検証した。 調査1では、英検1級から3級までのテキストを対象とし、各語彙特性が受験級によってどのように異なるのかを分析した。その結果、上位の受験級になるほど(a)低頻度語、(b)下位概念に位置する名詞と動詞、(c)意味を想起しにくい単語の割合が増加することがわかった。 学習者のテキスト理解度とテキストに含まれる単語の特性とのかかわりを検証した調査2では、単語の頻度・多様性・心像性が英検テキストの理解度に影響を与えることが示された。 さらに、これらの指標を組み合わせた回帰モデルを利用することで、一定のテキスト理解度に到達するのに求められる語彙熟達度を予測できることが明らかとなった。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

マクロルールに基づくメインアイディア理解能力の検証

茨城県/筑波大学大学院 在籍 木村 雪乃

▼研究概要
要約課題の評価に用いられるマクロルール(削除、一般化、構成)の観点から、日本人英語学習者のメインアイディア理解能力を検証した。 調査1でリーディングテストに含まれる設問を分類した結果、英検ではテキスト中の詳細情報を削除する項目が多く見られた。一方で、TOEFLでは下位命題を上位命題に置き換える一般化が、センター試験では書かれていないメインアイディアを推論する構成の設問が含まれていた。 調査2Aでは調査1で分類した項目を大学生に解答させた結果、3つのマクロルール間で正答率に差は見られなかったが、メインアイディア理解問題よりも詳細情報問題の正答率が有意に高かった。 最後に調査2Bで英検のテキストを用いて要約課題を行った結果、一般化や構成よりも削除の使用が多くなっていたが、テキストの性質によっては一般化や構成が使用されやすいものもあった。得られた結果について、多肢選択式テストと要約課題の差異という観点から考察を行った。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

小学校外国語活動におけるPhonemic Awareness の活動が模倣した発話に与える効果

大阪府/大阪市立神津小学校 教諭 井上 桃子

▼研究概要
本研究の目的は、Phonemic Awareness(以下PA)の活動を通して、日本語母語児童の発音にどのような変化が現れるかを観察することである。PAの活動は6年生をクラスごとに実験群と統制群に分けて行った。 PAの活動は2期にわたって実施した(Ⅰ期2012年6・月、Ⅱ期2012年11・2月)。PAの活動では音の聞き取りをねらいとしたinputの活動と、音の定着をねらいとしたoutput活動を組み合わせた。活動の効果を測定するためにリスニングテストと模倣した発話のテストを行った。豢 活動の結果、リスニングテストにおいて、Ⅱ期のプレテストで2群に有意な差が見られた。模倣した発話活動では実験群の方が、発話の変化が早く現れた。この結果から、PAの活動を行うことで、音の違いに気づくだけではなく、長期記憶に音声情報が転送されていると考えられる。 PAの活動は児童の音の気づきを、確実な技能として定着させることが可能になると言える。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

小学校外国語活動における内容言語統合型学習(CLIL)の実践と可能性【共同研究】

東京都/上智大学大学院 在籍・代表者 山野 有紀

▼研究概要
本研究は、外国語活動における他教科を取り入れた内容の充実とその指導方法の探究をめざし、内容言語統合型学習(CLIL)を取り入れ、その実現性と可能性を探ったものである。全国公立小学校5校において全10時間のCLILの実践授業を行い、そのうち4校では普段の外国語活動との比較分析も行った。 研究の結果、外国語活動におけるCLIL授業の実践が可能であることが検証された。 またそれらの実践より、 ①指導者、特に担任教諭の知識と経験を生かした、児童の興味・知的レベルに合う内容の充実、 ②多様な文脈の中での学習言語への慣れ親しみ、児童のコミュニケーション活動への積極的参加、 ③児童の知的レベルに考慮した思考活動の実践、 ④協同学習の質の向上、 ⑤文化・国際理解の体験的学習、以上5点を促進できる可能性が示唆された。 問題点としてはCLIL実践における、使用言語と教材作成の難しさが指摘された。これらより、さらなるCLIL実践の検証の必要性が挙げられた。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

スピーチコンテストにおける評価方法

群馬県/安中市立松井田東中学校 教諭 福田 昇

▼研究概要
スピーチコンテストの審査評価をサブランク法で得点化し、「全体的評価」が「分析的評価」に代わる評価方法として可能か検証した。 参加者は準1級レベル英語教師19人、2級レベル英語教師15人、ALT 5名であった。実験は、「a.スピーチの順位づけを行う場合、分析的評価と全体的評価との審査結果に相違はないか。 b.分析的評価よりも全体的評価の方が、評価時間は短くなるか。 c.分析的評価よりも全体的評価は評価が容易であるか」の3つを調査した。 結果は、a. 2つの評価方法に高い順位相関が見られ、分析的評価は全体的評価よりも有意に得点差が生じた。b.全体的評価は分析的評価よりも時間的に有意に評価者の負担を軽減した。 評価者別に見た場合、ALTの分析的評価時間は全体的評価よりも有意に時間が長くかかったが、準1級レベル英語教師では有意差はなかった。 c.ただし、参加者は全体的評価は分析的評価よりも評価が容易であるとは思っていないことが示された。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

ICT を活用した中学生のための聴解力養成教材の開発と試用結果

東京都/品川区立荏原第六中学校 教諭 岡﨑 伸一

▼研究概要
本研究は、「三ラウンド・システム」(竹蓋・水光、 2005)に基づいた中学2年生レベルの学習者を対象にした教材でICT(e-Learning)を活用した英語聴解力養成用の教材開発と試用効果の検証である。 聴解力養成の中核システムである「三ラウンド・システム」に基づいたWeb教材作成支援システム(竹蓋、 2009)を活用し教材作成をした後に試用した(実際に作成した教材例は3章を参照)。その教材の評価で学習者に対して、1)学習内容の定着を確認するためのChapter Quiz、2)聴解力の変化を観察するためのPre / Post-test、3)アンケートによる主観的評価で行った。それらの結果をまとめ、考察をした。 結果として、学習者は1)教材の内容を理解して学習を進め、2)聴解力の伸びが観察され、3)多くの学習者が成就感・達成感を感じ、学習ができたことがわかった。しかし、自由記述では20%が否定的な回答をしていた。学習効果は見られたが解決するべき課題も発見された。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生の英作文指導において文と文のつながりを意識化させるタスクの構成

茨城県/筑波大学大学院 在籍 柴原 由貴

▼研究概要
現行の学習指導要領において、「書くこと」では文と文とのつながりに注意して文章を書くことの指導が加わった。しかしながら、生徒はまとまった内容の文章は書けても、文と文とのつながりを工夫して展開することが十分身についていないことが国立教育政策研究所教育課程研究センター(2012)の調査で判明した。学習者に文と文のつながりを意識させるには、英作文を書く際にいかにつなぎ表現を多く、正しく使えるかを指導する必要がある。そこで本研究では、英作文指導にフォーカス・オン・フォームの手法を取り入れ、生徒に文と文とのつながりを「形式、意味、機能」の関係概念として意識させる指導を行って、その効果を検証することを目的とする。本研究では、英作文指導において理解中心タスクを行ったグループと、産出中心タスクを行ったグループの指導前・後のパフォーマンス、特につなぎ表現の使用状況(使用頻度と使用の正確さ)について比較検証した。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

自己評価と他己評価を利用した自律的英語学習の探求
―高校生による英語スピーチを対象として―

神奈川県/神奈川県立横浜清陵総合高等学校 教諭 菅沼 洋子

▼研究概要
本研究は、生徒評価(自己評価・他己評価)と先生評価の関係を調査・研究することを目標とし、特に以下の4つの研究課題について考察をした。 1)生徒の自己評価と先生評価は1か月内に行われた3回の計測でどのように異なるか 2)生徒の他己評価と先生評価は1か月内に行われた3回の計測でどのように相関するか 3)自己評価と他己評価はどのように生徒の学習態度に影響を与えるのか 4)自己評価と他己評価はどのように学習者の自律性に影響を与えるのか なお、本研究のデータは、高校生の1分間英語スピーチを対象とする。リサーチ参加者は、英語母語話者の教師1名、日本語母語話者の教師1名、日本語母語話者の高校生26名である。生徒は、13名ずつの自己評価グループと他己評価グループの2グループに分けられ、スピーチ後に自己評価もしくは他己評価を行い、教師も同様に生徒のスピーチを評価した。結果は、自己評価グループの方が、Language Useの項目において先生評価との一致度を見せたが、他己評価グループは先生評価との相関を見せず、評価活動を3回繰り返しても、相関関係の発展は見られなかった。また、学習の自律性に関する影響度に関しても自己評価グループの方で変化が観察された。

実践部門 Ⅶ 英語能力向上をめざす教育実践

語彙指導の諸問題と語彙学習方略の習得をめざした指導

茨城県/茨城県立下妻第一高等学校 教諭 川 貞夫

▼研究概要
大学進学を希望する学生の多い高校では、3年間で大量の語彙を学ばなければならないために、語彙指導の課題となる事項に十分に対応していないことがある。 語彙指導の課題となる事項から、1)教科書語彙の定着、2)単語集の活用、3)副読本の語彙、4)語彙に関する基本事項、5)コロケーション、6)生徒自身の語彙学習の把握について、具体的に問題と改善策を示すこと、さらに、指導によって生徒が有効な語彙学習方略を身につけられることを検証することが本実践研究の目的である。一学年を対象に一学年担当の英語教員全員の協力のもと実践を行った。 10月に語彙方略に関する生徒へのアンケートを行い、中学時代と比べ語彙学習方略に変化があったかを、さらに個々の語彙学習方略と単語テストや模試の成績との相関を調べた。 検証を通して、語彙指導の改善を図る継続的な授業実践が、生徒たちの語彙学習方略の獲得に役立っていることを示すことができた。

実践部門 Ⅷ 英語能力向上をめざす教育実践

統語的プライミングを応用したタスク作成の試み

大分県/大分県立大分雄城台高等学校 教諭 後藤 史典

▼研究概要
自然なコミュニケーション活動の中で言語形式に注目させ文法を定着させる「フォーカス・オン・フォーム」のアプローチが注目を集めているが、自由度の高い表現活動ではターゲットとする文法項目や構文を生徒がなかなか使用しないという問題がしばしば起こる。本研究では直前に触れた構文を繰り返し使用する「統語的プライミング」という現象を応用し、ターゲットとする文法項目の使用を暗示的に促すfocused taskの作成を試みた。またその結果、ターゲット構文の習得が促進されるかどうかを検証した。 結果はターゲット構文の難しさによって統語的プライミングの効果には差があり、認知負荷の低い単純な構文であるほど統語的プライミングは起こりやすく、その構文の習得にもつながりうるというものであった。結論ではその結果を踏まえ、高校における今後の文法指導のあり方について示唆する。

実践部門 Ⅸ 英語能力向上をめざす教育実践

高校生が地元を英語で紹介し海外の学校との交流を促進するノウハウを構築する
―FACEBOOK を活用して―

富山県/富山国際大学付属高等学校 教諭 林 要昭

▼研究概要
本研究は、本校国際英語コース生徒および英語部員を対象にした研究である。参加生徒が少しでも円滑に英語を発話できるよう、彼らが英語を使わざるを得ないような状況を創出するために、地元富山の観光地とお祭りを海外の姉妹校の同世代の生徒に向けて発信してみようという試みを実践した報告である。 この報告では以下の3点について参加生徒の積極的な変容を観察することができた。参加生徒の積極性と自主性が今後、海外の姉妹校との交流にプラス効果をもたらすと同時に、他の地域の高校にも良い刺激となって海外の高校とコンピュータで交流する学校が増えればよいと願って地域を英語で紹介するという実践をした報告である。(後略)

実践部門 Ⅹ 英語能力向上をめざす教育実践

英語の試験における語用論的能力を問う問題の出題傾向調査とその指導
―発話行為の指導―

東京都/上智大学大学院 在籍 深澤 英美

▼研究概要
本研究は大学入試センター試験、実用英語技能検定、Test of English for International Communication(TOEIC)に出題された問題の中から、正解するために語用論的な知識が必要となると考えられる問題を取り上げ、どのような発話行為が出題されているのかを分析した。また、それをもとにTOEICに関する語用論的内容を学生に指導し、効果を検証した。 その結果、上記の英語の試験には語用論的知識が必要な問題が出題されており、特に依頼や提案などの発話行為が出題されていた。それをもとにTOEICについての語用論的内容の指導を行った結果、TOEIC新公式問題集のリスニング問題の正解数には貢献しなかったが、指導後には指導前には使えなかった新しい依頼の表現を使えるようになった学生もいた。また、授業中に学生同士のグループワークや教員からのフィードバックをすることによって、学生に語用論的な気づきが生まれている可能性が示唆された。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

海外インターンシップと事前研修が日本人英語学習者に与える英語学習の動機・英語能力試験への影響

東京都/東京工業高等専門学校一般教育科 専任講師 樫村 真由

▼研究概要
本研究は、高等専門学校における海外インターンシップとその事前事後学習が、海外インターンシップおよび本調査に参加した学生の英語学習・使用の態度およびモチベーション、英語運用能力試験、英語運用能力の自己評価に与える影響を検証したものである。 本調査には、学生の英語学習・使用の態度およびモチベーションを測るために、GardnerのAttitude / Motivation Test Batteryに手を加えたリッカート形式のアンケートが、英語運用能力の測定には、TOEICと同形式の問題が、学生自身の英語運用能力自己評価を測るためには、TOEIC Can-Do Listを高等専門学校用に加筆修正した高専版Can-Do Listが使用された。 インターンシップ参加前と参加後のデータを統計学的に分析したところ、海外インターンシップ参加者のインターンシップ参加後の英語使用への不安が減少し、英語運用能力試験の達成度に向上が見られた。また、学生自身の英語運用能力の自己評価にも改善が見られた。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

在外日本人学校の高校生の持つ特異性の検討と新たな教育活動の提案
―学習ビリーフ,学習動機,学習ストラテジーに着目して―

中国/上海日本人学校高等部 教諭 関谷 弘毅

▼研究概要
本研究では、在外日本人学校高校生に対して効果的に機能する教育活動を模索し、それとともに在外日本人学校の高校生が持つ学習ビリーフ、学習動機、学習ストラテジーを日本の一般の高校生と比較検討をした。 調査1では、語学力研鑽のための宿泊合宿プログラムを実施し、参加者の学習観、学習動機、情緒要因に与える影響を検討した。その結果、文法に対する意識が高まり、正確に英語を理解し使おうとする態度が高まる傾向が見られた。 調査2では、在外日本人学校の高校生が持つ学習ビリーフ、学習動機、学習ストラテジーを日本の一般の高校生と比較検討した。その結果、日本の高校1年生の方が上海日本人学校高等部2年生よりも文法を重視する傾向が高かった。また、他人につられて学習行動をとりがちであることを示す「関係志向」が在外日本人学校の高校において、2年生の方が3年生より高かった。今後、現地語をESLの習得と同じ環境で学ぶ在外日本人学習者にとって、その経験が英語学習にも影響を与えるという視点を持って研究がなされることが望まれる。