英語教育に関する論文・報告書

STEP BULLETIN vol.18 2006

研究部門 Ⅰ 英語能力テストに関する研究

指導と評価の一体化をめざした信頼性の高い英作文評価基準表の作成: 多変量一般化可能性理論を用いて

東京都/津田塾大学 演習助手 大久保 奈緒

▼研究概要
本研究においては,英作文評価基準表を作成し,その評定項目及び,評定者に関する信頼性の検討を多変量一般化可能性理論や評定者フィードバックを用いて検討した。この評価表は,ジャンル分析研究を参考に作成された。内容,構成,語彙,言語使用の4観点から成立し,各観点に,3から4の下位項目が設置されている。3人の英語母語話者である英語教師が,41人の大学生が書いた英作文を,この評価表を用いて評定した。多変量一般化可能性理論を用いた分析では,信頼性の高い結果が導き出された。しかし,語彙と言語使用の多変量一般化可能性係数,多変量信頼度指数が,内容及び構成に比べ信頼性の低い結果となり,前者2観点については改善が示唆された。また,評定者フィードバックから,内容・構成の採点の際に,評定者が過去の経験から構築された内的基準と本評価表との間で,すり合わせを行っている様子が浮かび上がった。2003年に発表された「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」(文部科学省, 2003)の中では,実践的コミュニケーションが強調され,英語をコミュニケーションの手段として使用し,4技能の育成を図ることが推進されている。このような流れとともに,2004年には英検において1級に自由英作文が,準1級に記述式問題が導入されるなど,和文英訳や一文単位の英作文に限らない,まとまりのある英文を書く能力が求められる傾向が強まっている。しかし,英文ライティングの評価は評価観点が多岐にわたり,複雑であるため敬遠されがちである。本研究においては,英文ライティングの指導内容を反映した英作文評価基準表(以下,評価表)を作成し,その採点項目及び,評定者に関する信頼性の検討を多変量一般化可能性理論や評定者フィードバックを用いて検討する。

研究部門 Ⅱ 英語能力テストに関する研究

英語学習方法の考察:音読,暗唱,筆写

神奈川県/神奈川県立川崎高等学校 教諭 小林 潤子

▼研究概要
英語学習の中で音読が推奨されているが,教育現場では,音読に十分な時間がとれていない。音読の効果についての文献を読み,授業の中で音読の指導を強調して,英語の習得への効果を提唱してきた。 この研究では,2回の実験を通して繰り返し音読・暗唱・筆写の効果を比較した。また,指導の根拠となる理論を研究し,学習方法の考察を試みた。1回目の実験の結果分析では,音読と暗唱の間に有意差があった。2回目の実験では,指導方法を工夫して,音読,筆写の効果が,暗唱に近いものになるか,他の英語力向上に役に立つのかを検証し,事後テスト・定期試験・県下一斉テストで,より細かい内容を分析した。 事後テストの合計点の有意差はなかったが,熟語の部分で暗唱と筆写が音読に対して有意差があり,cloze test(注1)では暗唱が音読に対して統計的に有意差があった。定期試験では,cloze test で事後テストと入れ替わって暗唱と筆写に有意差があった。県下一斉テストの比較では,音読のグループの2回の結果(特に平均点とリスニング)に有意差が認められ,音読学習の効果が検証できた。 まだ不十分な研究ではあるものの,この研究で「音声の伴った繰り返し学習」の効果を再確認できたことで,今後の教育活動への効果を探ることができた。

研究部門 Ⅲ 英語能力テストに関する研究

学習者の口頭によるオンラインと訳出によるオフラインのパフォーマンス比較
―産出量・複雑さ・文法的正確さ・カバー率の4指標を用いて―

愛知県/名古屋大学大学院 在籍 松原 緑

▼研究概要
英語学習者が産出を行う際にどれほど自分の持ち合わせている英語能力を発揮できているのだろうか。これまで学習者のパフォーマンスを測定するには,主として流暢さ・複雑さ・正確さの3つの指標が用いられてきた。しかしこれら3つの指標だけでは,最終的に産出されたデータを表面的に評価することしかできない。本研究では「正確さ」の指標を,「文法的正確さ」と,意図したことをどれほど意味的に表出できているかを示す「カバー率」に分け,分析することを提案する。日本人英語学習者のオンライン・モードとオフライン・モードにおけるパフォーマンスを産出量・複雑さ・正確さ・カバー率の4指標を用いて分析した結果,学習者の持ち合わせている英語能力レベルにかかわらず,オフライン処理であれば表出できるものも,オンライン処理を必要とする口頭産出では表出できていないことがわかった。

研究部門 Ⅳ 英語能力テストに関する研究

ゲーティング法を応用した英語リスニング能力の要因分析

愛知県/名古屋大学大学院 在籍 村尾 玲美

▼研究概要
本研究では,日本人英語学習者と母語話者が,英語を聞き取る時に利用する手がかりについて,プロソディ情報と表現の知識という観点から分析を行った。結果として,次の2点が明らかになった。 1)母語話者とリスニング上級者は分節音素を聞かなくても,プロソディを手がかりとして使ってなじみ度合いの高い定型表現を認識することができた。リスニング中級者はこの能力に劣っており,定型表現を韻律的なまとまりとして記憶していないことが示唆された。 2)母語話者は,なじみ度合いの低い非定型表現でも,プロソディの手がかりを使って文構造や弱音節を認識することができた。学習者はプロソディの手がかりを非定型表現の認識に利用する能力に劣っていた。 本研究により,プロソディの手がかりを表現認識にどのように使うかが,リスニング能力に関与しているということが示唆された。

研究部門 Ⅴ 英語能力テストに関する研究

語彙テストの形式が語彙知識と読解能力の測定に及ぼす影響

茨城県/筑波大学大学院 在籍 森本 由子

▼研究概要
本研究は文脈が手がかりにならない言い換え形式のテスト(Type A),文脈が手がかりになる言い換え形式のテスト(Type B),そして文脈が手がかりになる空所補充形式のテスト(Type C)という3タイプの多肢選択式語彙テストと,単語の意味にかかわる知識,コロケーションの知識,読解能力との相関関係が異なるかどうかを調べた。この結果,言い換え形式のテストは空所補充形式のテスト(Type C)より単語の意味にかかわる知識を測定しており,文脈が手がかりになるテスト(Type B)は手がかりにならないテスト(Type A)よりも読解能力を測定している割合が大きかった。しかしコロケーションの知識については相関係数間に有意差が現れなかった。したがって,単語の意味にかかわる知識と読解能力については同様の文脈内語彙テストでも測定している能力の割合が異なることが示されたため,目的に応じて文脈内語彙テストを使い分ける必要があることが示唆された。

研究部門 Ⅵ 英語能力テストに関する研究

速読練習を取り入れた「多読」授業の効果【共同研究】

千葉県/我孫子市立我孫子中学校 教諭・代表者 佐藤 知代

▼研究概要
本研究では,中学校での効果的な多読指導の在り方を探るために,多読と結び付きの強い速読力の育成と多読指導とを組み合わせた統合的授業を実施し,その効果を測った。多読に関しては,中学2年生,3年生の読語数,読み方,読むレベルの変容について調査した。速読に関しては,ALT と共同で速読テストを開発し,3種類のpretest ,midtest,posttest を実施し,読むスピードと理解度への効果を測った。 また,アンケートを行い,情意面での変化や生徒に有用なリーディングスキルについても調べた。分析の結果,速読練習を取り入れた多読指導を受けた生徒は,年間で,中学2年生は3万語,3年生は6万語読めることがわかった。中学2年生は100 wpmまで,3年生は150 wpmまでは理解を伴った上で速読力を伸ばした。アンケートによると,英語力,速読力の向上を内面で感じた生徒が多くおり,授業評価も高かったことがわかった。

実践部門 Ⅰ 英語能力向上をめざす教育実践

e ラーニング教材の授業活用による英語実践的コミュニケーション能力の育成

岡山県/岡山県立津山高等学校 教諭 藤代佳予子

▼研究概要
本研究は,ネットワークを介して「いつでも・どこでも」動画や音声を学習に利用できるeラーニングを活用した授業実践を通して,eラーニング教材を活用した効果的な指導方法を探り,英語実践的コミュニケーション能力を育成することをテーマとしたものである。WBT(Web BasedTraining)用の教材を生かした「個」に応じた指導と教師による一斉指導を融合させる指導を行い,その学習効果を検証した。 その結果,学習者の特に英語運用能力下位層のリスニング力が有意に向上した。学習者全体が語彙,文法,作文を合わせて総合的に向上した。また,英語の4技能のうち「聞く力」を高めるために他の3つの技能を伸ばす必要があることへの認識の深化が見られた。これは,リスニング力を伸ばす活動が英語実践的コミュニケーション能力の向上につながることを示すものであろう。

実践部門 Ⅱ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生への英語教育における「デジタルポートフォリオ」の有効性

兵庫県/兵庫県立芦屋国際中等教育学校 教諭 岩見 理華

▼研究概要
本研究の目的は「デジタルポートフォリオ」の教育的効果に着目し,英語教育へ応用することの可能性と課題について検討することである。具体的には中学校の英語の自己表現活動の授業において,従来のペーパーベースのポートフォリオを用いた実践の効果と課題について明らかにした上で,公立学校の教育現場で容易に利用可能な汎用アプリケーションソフトを用いたデジタルポートフォリオの授業をデザインした。その実践結果から観点ごとの学習者のパフォーマンスの評価についてポートフォリオとデジタルポートフォリオの間に統計的にはほとんど有意な差は表れなかったが,生徒の態度の観察やアンケートの回答の分析からデジタルポートフォリオの活動が学習者に積極的に評価され,特にふりかえりの活動において有効であることが示された。また学習の記録をWeb 上に公開することや既存のオンラインソフトの導入,デジタルポートフォリオを用いたスピーキングの評価方法についての課題も明らかになった。

実践部門 Ⅲ 英語能力向上をめざす教育実践

生徒のSpeaking 力を育てる授業改善の試み【共同研究】
―「英語教員研修」の成果を通して―

宮城県/仙台市教育センター 指導主事・代表者 齋藤 嘉則

▼研究概要
「英語が使える日本人」の育成のための行動計画により,平成15年度から悉皆の英語教員研修が始まった。仙台市教育委員会も夏季休業期間中に2週間,英語教員研修を実施している。研修実施3か月後のアンケート調査では,研修を受講した教員から,言語活動の具体と特に話すことの指導と評価について疑問点や困難点が挙げられた。そこで,本研究では,生徒のSpeaking力に焦点を当て,生徒の発話の質と量を高め増やすことをめざし言語活動を工夫した。さらに生徒の発話を実際に記録して質と量の両面からいくつかの視点を設定して分析した。 その分析結果から,発話の量的な部分では,発話された単語総数及び文の総数は増加した。しかし,質的な部分では一部の生徒群において,文法的に正しく文を発話する割合が低下したことがわかった。このことから,まず学習活動から言語活動を積み重ねていくことで発話量そのものが増えたことから,学習した英語の単語や文についての知識が,実際の発話に活用されたということが言える。しかし,文法についての知識は,今回の一連の生徒の学習と教員の指導だけでは生徒の発話時に,まだ正確に働いていない,それらの知識が適切に作動するまで習得されていない,と考えることができる。 すなわち,英語についての知識において,単語や文についての知識と文法についての知識は,それぞれその習得の過程やその働き方が異なるのではないか,ということが明らかにされた。今後,教室内での活動を見直す新しい視点を得ることができた。

実践部門 Ⅳ 英語能力向上をめざす教育実践

中学生のスピーキング活動における振り返りの効果

兵庫県/高砂市立荒井中学校 教諭 的場 眞弓

▼研究概要
本研究におけるキーワードは,「振り返り」,「中学生のスピーキング力」,「絵を使用したStory Telling」である。 「実践的コミュニケーション能力」の育成が課題となり,コミュニケーション活動を行わせることが多くなってきた。それらの活動をより効果的にするため,「振り返り」に焦点を当て,その後の活動に及ぼす影響を検証することが,本研究における主な目的である。 前半においては,「振り返り」の効果を,A:ペアで行うグループ,B:1人で行うグループ,C:振り返りを行わないグループで比較し,スピーキング活動における「振り返り」の効果を検証している。後半は,ペアで振り返りを行ったグループに焦点を当て,ペアで振り返った時の会話を分析することで,スピーキング活動における「振り返り」の効果や影響を検証しようとしている。後半では,また,ペアの関係性が,「振り返り」の話し合いにも影響し,そのことが次の活動にも影響していることにも言及している。

実践部門 Ⅴ 英語能力向上をめざす教育実践

地域英語教材“15 Stories of Saitama-ken”(Ver.2)の開発と活用【共同研究】

埼玉県/鶴ヶ島市立西中学校 校長・代表者 吉田 敏明

▼研究概要
本研究は3部構成で,平成14年度に開発した中学生向けのCD-ROM 版地域英語教材“15 Stories of Iruma-chiku”(入間地区の15の物語)を第1部として仮説と検証の結果を述べる。次に,第2部は,題材を入間地区の範囲から埼玉県全体に広げて平成15年度に開発した“15 Stories of Saitama-ken”(埼玉県の15の物語)について起案,取材,編集,校正,教材化,配布方法などについて詳述する。そして,最後の第3部では,平成17年度に1 年間をかけて開発してきた“15 Stories of Saitama-ken” Ver.2 についてこれまでの教材と比べた改善点や取材方法,広報活動,生徒の反応などについて報告する。

実践部門 Ⅵ 英語能力向上をめざす教育実践

日常的に英語に触れる環境を作る学級担任による英語活動
―アメリカ合衆国におけるイマージョン教育の経験を生かして―

福岡県/大野城市立大野南小学校 教諭 上原 明子

▼研究概要
本実践は,アメリカ合衆国におけるイマージョン教育の経験からヒントを得,一日中子供たちと一緒に過ごす学級担任の立場を最大限に利用し,学校生活のあらゆる場面で可能な限り児童に対して英語を使用することに挑戦したものである。 対象は筆者が担任する5年生の児童35名である。実践は1年間を通して行った。英語の使用は,朝の会から始まり,給食,掃除,休み時間,それに一般教科(8教科),学校行事など,学校におけるすべての教育活動において行った。 この実践により,学校生活のどの場面やどの教科で,どのような英語表現が使用可能であるかが明らかになった。また,子供たちにどのような影響を及ぼしたかについても明らかになった。子供たちが大きく力を伸ばしたのは,語彙力と,自然に話される大量の英語の中から,必要な情報を聞き取る力である。また,英語に対する関心・意欲・態度,さらに,国語や算数の学力についてもよい影響を与えていることがわかった。

実践部門 Ⅶ 英語能力向上をめざす教育実践

学級担任が進める小学校英会話活動【共同研究】
―地域イントラネットを活用した多様な活動―

福岡県/大牟田市立明治小学校 校長・代表者 安田 昌則

▼研究概要
本研究は,大牟田市教育委員会が作成している地域イントラネットを活用して小学校の学級担任が中心となって英会話活動の多様な活動を進めていった実践報告である。研究内容は,英会話活動の授業用コンテンツを活用したものとテレビ会議システムを活用したものである。小学校英会話活動は,ややもすれば学級担任よりも英会話活動担当教師やALT などが中心になって進められていることが多く見受けられる。本市の小学校英会話活動は,学級担任が指導することになっている。そこで,小学校で英会話活動を推進するにあたり,本市の地域イントラネットを活用して,学級担任が意欲を持ち,自信を持って進めることのできる英会話活動について研究を行った。

調査部門 Ⅰ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

Constructing a Japanese Secondary School Students’ Beliefs Model
―日本人高校生の英語学習に関するビリーフモデルの構築―

神奈川県/神奈川県立神奈川総合高等学校 教諭 鈴木 栄

▼研究概要
学習者のビリーフに関する研究は,Horwitz(1987)が開発したビリーフを測る尺度としての質問紙であるBeliefs about Language Learning Inventory(BALLI)を使用した研究から,さらに学習者のストラテジー,動機付け,不安などの研究へと発展してきている。学習者が持っているビリーフを知ることは,カリキュラム編成,授業改革,評価などにおいて必要なことである。本研究は,これまであまり研究対象とされてこなかった高校生(1,143名)のビリーフについて改訂版BALLI を使い調査したものである。 分析には,試行研究では確認的因子分析を行い,本研究では因果モデルを構築した。分析の結果,生徒のビリーフの特徴の1つとして,日本語による確認志向が強いことがわかった。これは,オーラル・コミュニケーションを推進する教師のビリーフとの食い違いを生むことを暗示している。 今回できた日本の高校生のビリーフのモデルは,1,000人を超える被験者を得,信頼性も妥当性も確認されており,現在時点での高校生の英語学習に関する考えを表していると言える。

調査部門 Ⅱ 英語教育関連の調査・アンケートの実施と分析

日本語と英語の読解方略使用の比較

北海道/北海道立札幌工業高等学校 教諭 松本 広幸

▼研究概要
習熟度が低い第二言語(L2)の読解プロセスは第一言語(L1)の読解プロセスとは異なると,先行研究で報告されている。本研究では,日本語と英語の読解方略使用について質問紙調査を行い,両者を量的に比較した。結果として,(1)習熟度が低い英語の読解方略使用量は日本語の読解方略使用量よりも小さかったが,(2) 英語の読解方略使用量パターンは日本語の読解方略使用量パターンと類似し,(3) 英語における読解方略使用の関係性は日本語における読解方略使用の関係性と差はなかった。これらの結果は先行研究と一致しない面もあるので,この点も含めて検討した。また,本研究は,読み手が用いる読解方略の組み合わせについてもその概略を提供している。